嘘恋のち真実愛
今さらながら、面倒な条件を受け入れてしまったと悔やむ。

だいたい部長を奪える自信がない。

部長に甘えられる自信もない。

どんなふうに甘えたらいいの?

甘えるって、なに?


「芦田さん、どうかした? 難しそうな顔をして」

「へっ? あ……」

「へって……。ああ、さっき送ったメールになにか不都合でもある?」

「いえ、あの……あれ? 鈴川くんは……」


横から顔を出したのが、予想していない部長だったから間抜けな声が出てしまった。部長は鈴川くんの椅子に座ったので、鈴川くんの姿を左右に首を動かして、探す。


「鈴川くんなら、さっき帰ったよ。芦田さんにも挨拶していたけど、パソコンを険しい顔で睨んでいたから、悲しそうにそっと離れていたな」

「そうでしたか……気付かなくて、悪いことしちゃった……」


鈴川くんのデスクにあるパソコンは閉じられていた。『お疲れ様』を伝えられなかったのが申し訳ない。

周囲を見回すと、フロア内に人が少なくなっていた。今日は定時で帰る人が多い。私も定時で帰る予定だったけど、部長からのメールのせいでまだ残っているようなものだ。
< 20 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop