嘘恋のち真実愛
目を閉じているだけだから、周囲の音や声は耳に届いた。スタッフの人が部長に、救護室へ案内しましょうかと聞いている。


「ありがとうございます。顔色がもとに戻ってきているように見えるので、ここで休んでいたら大丈夫かと思います」

「そうですか。なにかご心配なことがございましたら、いつでもお声かけくださいませ」


スタッフの対応は素晴らしい。部長も気遣いのある柔和な対応だった。やはり彼はみんながいうように、いい人だ。

ぼんやりする脳でも冷静になっていた私は、数分で目を開けた。血のめぐりが良くなってきた感じがする。


「ん? 起きた? まだ寝ていてもいいよ」

「いえ、もう大丈夫です。すみません、ご迷惑かけてしまって」

「全然迷惑ではない。赤くなったり、青くなったりするゆりかにはビックリしたけどね」


クスッと笑われて、恥ずかしくなる。それと、手を繋ぐよりも近距離にいることが恥ずかしい。

心がまた落ち着かなくなる。今日は混乱することが多くて、困ってしまう。それに、部長が優しくて困る。

彼はここで待っているようにと言って、どこかへ行った。
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