嘘恋のち真実愛
「芦田さん、お疲れ様」

「お、お疲れ様です……」


彼の目をしっかりと見られなくて、視線を空にさまよわせる。どうしよう……。

と、とにかく帰ろう!

今は去るに限る!

意を決してバッグから財布を急いで取り出すが、その手を咄嗟に掴まれた。


「逃げなくていいから。話をしようよ」

「いえ、なにも話すことはないです」

「ふーん。……じゃ、会社のみんなの前で話そうかな」

「えっ!?」


会社で話す?

目を丸くさせた私の手を部長が引っ張る。その調子で、バランスを崩した私は彼へと体を寄せる形となった。

ぎょっとなって離れようとする私の耳元に部長の顔が近付く。


「会社での芦田さんと違う顔の話をしたら、みんな驚くだろうね」

「ちょっ! 脅しですか?」

「そんな、脅すなんて人聞きの悪いこと言わないでよ。ただ話したいだけなのに」


私は微笑む部長に冷ややかな視線を送ったあと、肩を竦めて座り直す。

この場で話したいことは何もないけれど、釘をささなければならない。


「ここで見たこと、聞いたことは忘れてください」

「忘れられないよ」

「なら、会社では絶対に話さないでください」

「んー、どうしようかなー」
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