嘘恋のち真実愛
ふざけた返事をする部長をキッと睨んだ。上司を睨むのは良くないけれど、お願いしているのに、受け入れてくれないから苛立ってしまう。

この大江部長は、一か月前に大阪支社から東京本社に異動してきた。32才という若さでの部長職就任と見た目のかっこよさで、着任前から話題になっていた。

着任してからの人気も男女問わず高く、特に若い部下からは慕われている。

物腰が柔らかく、どんな意見でも聞いてくれて、的確な判断をした上で指示するから早くも多くの人と信頼関係を築いていた。

私も例に漏れず、信頼していたが……その信頼する気持ちは今、薄れてきている。こんな人だったとは……。


「部長こそ、いつもと態度が違いませんか?」

「ほー、やり返そうというの?」

「そういうつもりではないですが」

「わかった。芦田さんが言うようにここでのことは、誰にも言わない」


やっと意図を汲み取ってくれたことに肩の力を抜く。

しかし、その油断は一瞬だけだった。「ただし、条件がある」と部長が続けたからだ。嫌な予感がして、顔を歪める。


「どんな条件でしょうか?」

「俺の彼女役をやること」
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