ロストラブレター
麗、咲子、そして遥の背中を見送り残すは自分自身。
3年生の下駄箱まで行き先輩の靴の上に手紙を置くだけ。
ラブレターの事を考えるだけでまた手汗が出てくる。

今日こそは、絶対にこの手紙を先輩の下駄箱に入れてみせる。
熱い決意を胸に、ググッとと手に力を込めて自分自身に気合いを入れ直した。

3年生の下駄箱がある昇降口は、1.2年生とは別の校舎にあるため一度靴を履いてから向かう必要がある。
3年生は部活も引退してすぐに下校する人がほとんどてあるため、きっと今なら下駄箱にいる人も少ないはず。かくいう先輩もすでにサッカー部を引退している。
こっそりラブレターを入れるには丁度いい時期と時間だ。

私は早足で昇降口まで向かい、上履きからローファーへと履き替えた。
足元から正面へ顔を向ければ、中庭を挟んだ向かい側に3年生の昇降口が見える。

途端に、心拍数が上がるのを感じた。
人は緊張すると、息苦しくなるほどに心臓を速く動かすらしい。
体育のマラソンの比じゃない。
あまりの息苦しさにむせてしまいそうだ。
呼吸を整えようと、私はセーラー服の襟元をギュッと掴んだ。
まぶたを閉じ、ふぅーと長く細いため息をつく。そうすると、僅かではあるが小動物かのごとく、せわしく動いていた心臓がスピードを緩めるのが分かった。


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