ロストラブレター
数分格闘したところで、私は取手から手を離し脱力した。
学校の下駄箱はかなり古く、確かに立て付けが悪い所もあるが、まさか先輩の下駄箱がここまでとは…。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
今日こそは、と意気込んで今日一日を過ごしてきたのだ。
私は再び取手に手をかけ、思考を巡らせた。
力任せではなく、頭を使おう。そう、焦らず、色々試してみなくちゃ。

先程とは違い、今度は上や下、押したら引いたりしながら確認しつつ解錠に集中した。
集中しすぎていたため、時間がどの位経過したかは分からない。
だから人が近づいていたことにも全く気づいていなかった。

「しょうたー、今日は塾ー?」

まのびした声がすぐ近くから聞こえ、意識が下駄箱の扉から離れた。
「いや、今日は長門連れて本屋とか寄るから」
この声!サッと血の気が引いた気がした。
先輩の声だ。しかも長門って…。

頭を振り、離れた意識を再び集中させる。
すぐそばまで先輩が来ている。そうか、まだ帰っていなかったんだ。私とした事が先輩が帰るのを待ってから手紙を入れればよかった。だが悔しいことに今の今まで考え付かなかったのだから仕方がない。

(お願い、開いて〜!!)

半ば涙目になりながら、両手を使って引っ張った。もうこれが最後のチャンスだ。

バンッ!!!

「うおっ、今の何の音だ?!」

パタパタとゆっくり近づいていた足音が一瞬止んだ。
黒瀬先輩でない声が下駄箱に響いた。

(…あ、あい、た)

破裂音の様な音がなり、急に感じた開放感は扉が開いた事を意味していた。
呆けていた時間は、恐らく先輩達よりも短かっただろう。
手紙をすぐ様ローファーの上に丁寧に、でも素早く乗せて再び扉を閉めた。

なぜか閉める時は全く力をかけず必要がなかったので拍子抜けしたが、ともかく助かったのは確かだ。

再び聞こえた足音がここに辿り着く前に、私は任務を終える事が出来た。


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