2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
そもそもこの任務に油断もくそもないと思うんだよね。相手は弱い妖な訳だし。
それを今の武に伝えることは火に油を注ぐことなので決して言わないが。
「…ごめん、武。クレープ屋さんが目に入ってつい…。ほら、武のクレープも買ったよ?チョコチップ好きでしょ?」
反省してますよ、と眉を下げて武を下から見つめれば武は何故か頬を赤めて私を見ていた。
ん?何故?
クレープそんなに欲しかった?
「…頼むから次は俺に一言言ってから屋台に行ってくれ。…クレープはありがとう」
はぁ、と大きなため息をつきながら武が私からクレープを受け取る。どうやら武の怒りは収まったようだ。
「…でもな。俺の今の気分は残念ながらチョコチップじゃねぇんだわ」
「ええ!?無類のチョコチップ好きなのに!?」
「なんだよ、それ。適当なこと言うな」
武の怒りが収まったことに一安心していると、武がそんな私に対して意地悪く笑ってきたので、私も戯けたように武に笑ってみせる。
「じゃあ何が食べたかったの?」
そして武との会話を楽しみながらも私は自分のチョコバナナクレープを口に含んだ。
「…紅の、食べてるやつ」
「…え」
武の低く小さな声が耳へ届く。
気がつけば武は私のクレープを持っている方の手を包み、私との距離を詰めていた。
武の形の良い唇が私のクレープへと迫る。
「あ」
私が思わず声を出した時にはもう遅く、ぱくりと大きな一口を武に奪われた。
どちらかが少しでも顔を動かせばお互いの鼻が触れそうな程の距離で一瞬だけ武がまっすぐ私を見つめる。