その上司、俺様につき!
「君は俺のことをどう思っているんだ?」
「な、何を言ってるんですか!? こ、こんなところで答えられるわけがないでしょう!?」
一体何を聞かれるのかと心づもりをしていたけれど、あまりにも場違いな質問をされたので、思わず大きな声を上げてしまう。
「その質問はややイエローカードだと思うが?」
顔を真っ赤にして抗議する私の隣で、冷静に社長が告げる。
ステレオ放送よろしく、2方向からぎゃあぎゃあ騒がれるのに嫌気が指したのか、久喜さんはわかりやすくうんざりした顔になった。
「いいか。君が答えない限り、俺からは何も言えない。そういう決まりなんだ」
真剣な眼差しで私に語りかける彼をよそに、社長はあくまでもマイペースだ。
「……その説明もイエローカードだな」
久喜さんはそんな彼を、無言でギッと睨みつけている。
「これがサッカーなら”退場”と言いたいところだが、私だって鬼じゃない。遠藤君の口から彼女の気持ちさえ聞ければ、あとは君達の好きにすればいい」
彼の提案を受け、まだ納得のいかない顔をしているものの、久喜さんもしぶしぶ頷く。
「……と、言うわけだ。さあ、言いたまえ」
「いや、何が『と、言うわけ』なんですか!? 全然意味わかんないんですけど!」
でも至近距離で2人に見つめられると、蛇睨まれた蛙状態だ。
(2時間サスペンスやアニメで、わかりやすく自白を強要される犯人って、こんな気分なのかも……)
私は内心冷や汗タラタラになりながら、聞こえるか聞こえないかのか細い声で答えた。
「す、好きですが……?」
ポロッと言葉をこぼした途端、
「よし……!」
久喜さんはガッツポーズをして私を抱き寄せ、
「……うん、まぁ遠藤君が幸せならそれでいいか」
と、社長はのんびりあご髭を撫でた。
このまま久喜さんの胸に抱かれていていいものなのか。
仕事もせずに社長室でサボっていてもいいものなのか。
けれど私の上司と会社の社長が、今まさにニコニコしながら私を見つめているわけで……。
ひとまず、私は抵抗を止め、疲れ切った心身を大好きな彼に預けたのだった。
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