3分遅れのアンダンテ
「着いたっ」
駅の到着時刻は15分ほど遅れて、午後2時57分。
約束の時間の3分前。
祈先輩の乗る予定の電車のホームは……反対側だ。
電車はまだホームにいる。
走れば間に合う。
開いたドアから私は飛び出した。
「ごめんなさいっ、通してください!すみませんっ!」
それなりに大きな駅だからか、人が多くなかなか前に進めない。
「お願いだから、通してっ」
人にぶつかり、波に押され、持っていた紙袋はシワだらけ。
走ったせいで整えてきた髪は乱れてしまっている。
そんなことを気にする気持ちの余裕はどこにもなくて、必死に祈先輩の姿を探した。
先輩、祈先輩、どこにいるの?
──プシューっ
時間になった。
祈先輩を乗せた電車は、重い扉を閉じてゆっくりと走り出してしまった。
祈先輩には、会うことができなかった。