もう誰かを愛せはしない
蛙と虫の声を掻き消してしまうほど、私は声をあげて泣いた。


今の礼羽の言葉が嘘でも構わなかった。



だって嘘だったとしても、その一言で私の不安は吹き飛んだから。




きっと人間には嘘が必要なんだよね。


真実だけの世界だったら、きっと誰も幸せにならない。



優しい嘘があるからこそ人は生きていける。



そう思った。






私が泣き止むと礼羽は再び歩き出し、おじいちゃんに頼まれた牛乳を買って私達は帰った。



辛かったし、複雑な気持ちになったけど礼羽との距離が縮まった気がして私は満足していた。



そんな気持ちを感じながら、蚊帳の張られた部屋で礼羽と手を繋いだまま瞼を閉じた。




夏風に包まれながら…
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