シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
おしゃべりに余念のないフィリピーナたち。しかし、同じフィリピーナでも、彼女は周りの女性たちと違った雰囲気を持っていた。小さくはあるが、感性と創造性の色彩がその瞳の奥に宿っている。それは、幼い頃から続けているスケッチを描く習慣が、彼女にもたらしたものであろう。彼女は目に映るものを、楽しそうにスケッチブックに描いていた。
しかし、だからと言ってその習慣が経済的に彼女を豊かにする糧になっている訳ではない。
「ねえ、エラ」
傍にいた友人が彼女に話しかける。
「なに?」
「おしゃべりより、絵を描いている方が好きなんて…女としては変態よね」
「そうかしら…」
「だって…女は口から先に生まれたって言われるのが通説よ」
友人が自らの口をとがらせて、エラを責め立てる。
「休みに仲間と集まったこの状況で、口を動かさないでいられるあなたが不思議でしょうがないわ」
「ハハハハ…でも、みんなの話しを聞きながらスケッチするのって、けっこう楽しいわよ」
「そうかしら…楽しいかもしれないけど、ストレスの発散にはならない。女ってね、大好きな人とのおしゃべりで、日頃のストレスを発散した時こそ、本当に幸せを感じる生き物なの」
「そうかしら…」
「あら、だったらエラは、どんな時に幸せを感じるの」
「そうね…まぶしい日差しを手で陰る時かな」
エラはそういいながら、船長さながら腰に手を当てて遠くを見るポーズをとった。そんなエラの答えと可愛いしぐさに周りはどっと笑い出した。
「…別にあなたの勝手だけど、変な時に幸せを感じるのね」
エラは笑いながらも、またスケッチを描きはじめる。
「とにかくいい加減スケッチブックを閉じて、あなたも、レチェ・フラン(すごく甘いフィリピン版プリン)を食べなさい。家で奥様の目を盗んで焼くの、苦労したんだから」
「はーい」
エラは、友達の誘いに笑みで応えながら、仕方なくスケッチブックを閉じた。
友人から紙皿に盛られたレチェ・フランを受け取った彼女は、プラスチックのスプーンで口元に運んだ。
その時、甘い香りに誘われた蜂が、スプーンに盛られたレチェ・フランを目指して飛んできていたのだが、彼女はそんな危機に気付くことができなかった。
日本には「風が吹けば桶屋が儲かる」という落語があるが「香港に風が吹くと…」いったい誰の人生が変わるのだろうか。
しかし、だからと言ってその習慣が経済的に彼女を豊かにする糧になっている訳ではない。
「ねえ、エラ」
傍にいた友人が彼女に話しかける。
「なに?」
「おしゃべりより、絵を描いている方が好きなんて…女としては変態よね」
「そうかしら…」
「だって…女は口から先に生まれたって言われるのが通説よ」
友人が自らの口をとがらせて、エラを責め立てる。
「休みに仲間と集まったこの状況で、口を動かさないでいられるあなたが不思議でしょうがないわ」
「ハハハハ…でも、みんなの話しを聞きながらスケッチするのって、けっこう楽しいわよ」
「そうかしら…楽しいかもしれないけど、ストレスの発散にはならない。女ってね、大好きな人とのおしゃべりで、日頃のストレスを発散した時こそ、本当に幸せを感じる生き物なの」
「そうかしら…」
「あら、だったらエラは、どんな時に幸せを感じるの」
「そうね…まぶしい日差しを手で陰る時かな」
エラはそういいながら、船長さながら腰に手を当てて遠くを見るポーズをとった。そんなエラの答えと可愛いしぐさに周りはどっと笑い出した。
「…別にあなたの勝手だけど、変な時に幸せを感じるのね」
エラは笑いながらも、またスケッチを描きはじめる。
「とにかくいい加減スケッチブックを閉じて、あなたも、レチェ・フラン(すごく甘いフィリピン版プリン)を食べなさい。家で奥様の目を盗んで焼くの、苦労したんだから」
「はーい」
エラは、友達の誘いに笑みで応えながら、仕方なくスケッチブックを閉じた。
友人から紙皿に盛られたレチェ・フランを受け取った彼女は、プラスチックのスプーンで口元に運んだ。
その時、甘い香りに誘われた蜂が、スプーンに盛られたレチェ・フランを目指して飛んできていたのだが、彼女はそんな危機に気付くことができなかった。
日本には「風が吹けば桶屋が儲かる」という落語があるが「香港に風が吹くと…」いったい誰の人生が変わるのだろうか。