シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
ドラゴンヘッドは彼女のそんな反応を見て、自分への恐怖心が薄らいできていることを悟った。さて、もう一度脅しあげた方がいいのか…。
「わたしは眼のドクターなの。仕事がらどうしても、会った相手の眼の健康状態をチェックしてしまうんだけど…」
ドラゴンヘッドは話の方向を感じ取って自然と眼をそらす。
「ドラゴンヘッドさんは、蛍光灯のわずかな光で、時々とてもまぶしそうに眼を細めるけど…」
彼はそっぽを向いたきり返事もしなかった。
「まぶしい以外に、時々目がかすんだり、小さな文字が読みづらかったりしない?」
相変わらず無言。
「もしかしたら、加齢性の白内障ではないかしら…ちょっと診せてごらんなさい」
ドラゴンヘッドの顎を取り、こちらへ向かせようとするモエに、彼は顔を遠ざけてあからさまに嫌がった。
「白内障はね、眼の中でレンズの役割を果たしている水晶体のたんぱく質が、年齢とともに変性し、白く濁ってくることによって起きる病気なの。症状が進み、日常生活に支障がある場合は、眼内レンズをはめ込む手術をするんだけど、手術時間は15分ほどで、日帰りでの手術も可能よ。進行がそれほどではなければ、点眼薬や内服薬が用いて進行を遅らせるという方法もあるし、野菜や果物、海草などの食品に含まれる色素の一種であるルテインを積極的に摂取して進行を遅らせることもでき…」
「いい加減にせんか」
ドラゴンヘッドもついに我慢の限界がきて、モエのおしゃべりを遮った。
「目の診療をして欲しいなんてだれも言っておらん」
「でも…」
「だいたい人が老いれば、目も悪くなるし、歯も抜けるし、足腰も弱くなる。その進行を遅らせてなんの得があるんじゃ」
「逆らうわけじゃないけど、死ぬ直前までからだのあちこちのパートが健全で、自立した生活ができることは、悪いことじゃないと思う」
「…先生もわかっておろうが…人間は不死ではない。だから人間は老いることによって、時間をかけて死ぬことを準備していくのだろ。老いの進行を止めたら、どうやって死ぬ準備をしろというのだ」
「だからって、治療して直るものを放っておくってのも…」
「いいかい。体の不具合もない内は、死ぬなんて考えられないものだ。だからいっこうに死の準備ができない。いくらピンピンしても、コロリの時にその準備もできていないのは残酷でもあり、悲惨だ」
「わたしは眼のドクターなの。仕事がらどうしても、会った相手の眼の健康状態をチェックしてしまうんだけど…」
ドラゴンヘッドは話の方向を感じ取って自然と眼をそらす。
「ドラゴンヘッドさんは、蛍光灯のわずかな光で、時々とてもまぶしそうに眼を細めるけど…」
彼はそっぽを向いたきり返事もしなかった。
「まぶしい以外に、時々目がかすんだり、小さな文字が読みづらかったりしない?」
相変わらず無言。
「もしかしたら、加齢性の白内障ではないかしら…ちょっと診せてごらんなさい」
ドラゴンヘッドの顎を取り、こちらへ向かせようとするモエに、彼は顔を遠ざけてあからさまに嫌がった。
「白内障はね、眼の中でレンズの役割を果たしている水晶体のたんぱく質が、年齢とともに変性し、白く濁ってくることによって起きる病気なの。症状が進み、日常生活に支障がある場合は、眼内レンズをはめ込む手術をするんだけど、手術時間は15分ほどで、日帰りでの手術も可能よ。進行がそれほどではなければ、点眼薬や内服薬が用いて進行を遅らせるという方法もあるし、野菜や果物、海草などの食品に含まれる色素の一種であるルテインを積極的に摂取して進行を遅らせることもでき…」
「いい加減にせんか」
ドラゴンヘッドもついに我慢の限界がきて、モエのおしゃべりを遮った。
「目の診療をして欲しいなんてだれも言っておらん」
「でも…」
「だいたい人が老いれば、目も悪くなるし、歯も抜けるし、足腰も弱くなる。その進行を遅らせてなんの得があるんじゃ」
「逆らうわけじゃないけど、死ぬ直前までからだのあちこちのパートが健全で、自立した生活ができることは、悪いことじゃないと思う」
「…先生もわかっておろうが…人間は不死ではない。だから人間は老いることによって、時間をかけて死ぬことを準備していくのだろ。老いの進行を止めたら、どうやって死ぬ準備をしろというのだ」
「だからって、治療して直るものを放っておくってのも…」
「いいかい。体の不具合もない内は、死ぬなんて考えられないものだ。だからいっこうに死の準備ができない。いくらピンピンしても、コロリの時にその準備もできていないのは残酷でもあり、悲惨だ」