シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
「インターコンチネンタル ダナン サンペニンシュラ リゾート がいいだろう」
「また、長い名前のホテルだこと…」
「いいか、密航にともなう、船代、パスポート偽造代はオプション予算だからな。しかも、ふたり分だぞ」
「ふたり分?」
「ああ、あんたの息子さんがメイドと一緒じゃなきゃ、一歩たりとも動かんと言っているそうだ」
「やれやれ…仕方ないわね」
「5日くらいでホテルに到着するだろう。で、ホテルで息子さんを確認したら、オプション費を足して残金を送金するように」
「はいはい、今度は私が約束を守る番なのはわかってます」

 モエが九龍城砦を離れる時が来た。12時間前は、恐怖と不安で押しつぶされそうになりながら、その門をくぐったが、K14が息子を救出してくれた今は、この街のイメージもだいぶ変わって見えた。外の空気も夜の重苦しさがやわらぎ、朝の香りを漂わしていた。
 小松鼠が建物の外まで彼女を送ってくれた。
 別れ際、モエはあらためて小松鼠に向き直った。

「あなたがいなければ、息子を取り戻すことができなかった。ありがとう。本当にあなたはいい子だわ」

 すると小松鼠がもっと褒めてくれといわんばかりに鼻を膨らませて顎を上げる。その表情を見て、モエは、なぜ小松鼠がここまで自分に尽くしてくれるのかを悟った。モエの瞳に涙が溢れた。夫の死以来、初めて流す涙だった。

「小松鼠くんの知恵の隙間にいたのは、あなただったのね…」

 モエは小松鼠を抱きしめ、いつまでもその腕を解こうとしなかった。



 ベトナムにあるダナンは、ハノイ、ホーチミンに続いて『第3の都市』として栄えている中部の都市である。近年ではこのダナンにいくつもの超豪華なリゾートホテルが建設されており、世界的に人気の高いアジアのリゾート地となっている。このリゾートでの最大の魅力は何といっても、エメラルドの海と白い砂が広がる「ミーケビーチ」だ。その砂浜をエラとタイセイがてくてくと歩いている。もちろん5日間の密航を終えたふたりには、「ミーケビーチ」の美しさなど鑑賞する余裕などはなかった。
 端から端まで、約1Kmの白い砂浜を歩き通し、ふたりはようやく船長から指示されたホテルにたどり着いた。

「ミスター&ミセス纐纈様ですね。パスポートをご確認させていただけますか」

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