シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
 ホテルのフロントスタッフが、ふたりのリザベーションを確認した。リザベーションされた部屋は確かにあったが、それはスイートルームだった。フロントのスタッフは、薄汚れたこのカップルが、なぜこんないい部屋の予約が取れた不思議だった。予約には法外なデポジットが必要なのに…。
 もっとも、エラとタイセイの姿が、薄汚れているのも無理はない。ふろにも入らず、着替えもできない船旅だったのだ。

 フロントがチェックイン作業を進める間、エラはあたりを見回しながらタイセイにつぶやく。

「ねえ、私たち助かった、てことなのかしら」
「胡散臭い何人かの人達の間を、まるで荷物のように受け渡されたけど、今この超高級ホテルに立っているところを見ると…どうも、そうらしいな。」

 タイセイもホテルで楽しげにくつろぐ観光客を眺め、こんな平和的な風景は久しぶりだと感じていた。

「確か、私たちを船に乗せたのも、身なりは違うけど中国人よね」
「ああ、でも、お互いをイングリッシュネームで呼んでいたから、香港人だろうね」
「そうなんだ…」
「お待たせいたしました。お部屋の準備は整っておりますので、どうぞお部屋でおくつろぎください」

 フロントスタッフがスイートルームのキーとともに、ふたりのパスポートを手渡した。

 エラは、下船時に手渡された偽造パスポートを、あらためて見つめながらタイセイに言った。

「ところでタイセイ、あなた5日前、在香港日本総領事館前で、私にプロポーズしたわよね」
「そうだっけ」
「記憶がないなんて言わせないわよ。私の目がしっかり覚えているんだから…でもその時返事をしていないはずなのに、もう結婚しているのはどうしてかしら」

エラが手にしているパスポートは、確かに自分の写真が貼ってあるが、エラは名前がElaiza Kouketsu.になっている。

「とにかく…部屋に行ってシャワーを浴びようよ」

 エラのぼやきにどう応じていいかわからず、タイセイは大声でベルボーイを呼びつけてごまかした。

「言っておきますけど、たとえ結婚しても、1番大切なのは私のママ。旦那さんは2番目だからそのつもりで」

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