侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
(わたしに対する意地悪……)
どういうわけか彼女はコーディアのことが気にくわないのだ。
コーディアは彼女の視線から目を逸らせた。詩の暗唱の順番はすぐ隣まで回ってきている。
コーディアはうつむいた。どうしよう。
正直に知りませんと言うことは簡単だけれど、無知だと笑われるのは目に見えている。きっと件の令嬢は優しい言葉をコーディアにかけるのだ。しかし同時に彼女はコーディアを嘲笑する。
いよいよ、というとき。
「コーディアさまの代わりにわたくしが二回暗唱しますわ」
鈴を転がしたような声がコーディアの代わりに発せられた。
アメリカである。
「あら、コーディアさまは参加されないの?」
この遊戯を提案した令嬢が不満そうに口を挟む。
「コーディアさまは外国から帰国されたばかりですもの。あちらではフラデニア系の寄宿学校に入られていたと聞いていますわ。インデルクの流行にはまだ慣れていないと思うのです」
「ふうん……」
コーディアの代わりに、はきはきと答えるアメリカを前に、少女は面白くなさそうな生返事をする。
「あら、だったらフラデニアの詩でもよくってよ」
と、別の少女が口を挟んだ。
「えっ……」
「ああそうね」
他の少女も追随した。
話が別の方向に飛んだせいでアメリカも今度は口を開かなかった。他の夫人たちも敢えて口を挟まない。
コーディアに視線が注がれる。
コーディアは息をつめた。こういう風に注目されることには慣れていない。
「租界の寄宿学校では詩など習わないのではなくて?」
「なら一体何を教えてもらっているのかしら」
誰かが憐れむ様に言葉を漏らした。隣の少女が肩を震わせている。
「あなたたち、コーディアさまは緊張されているのよ。そんな風にからかってはだめよ」
ダウエル夫人が少女たちをたしなめる声を出す。
「からかってなどいませんわ。ちょっとしたお遊びにも参加してくださらないなんて、コーディアの方がわたくしたちと仲良くなる気が無いに違いありませんわ」
と、令嬢がぷうっと頬を膨らませる。
ふいにメンデス学長の言葉が思い出された。彼女は最後別れ際に『わたしはあなたに本国にも劣らない教育を施してきました。くれぐれもこの学校で学んだ精神を忘れないよう、日々しとやかに過ごすよう心掛けなさい』
(ここで黙り込んだら、わたし……)
コーディアはありったけの勇気を体中からかき集めた。ずっと黙ったままだとコーディアと一緒に友人たちまで馬鹿にされてしまう。それは嫌だった。
「わ、わかりました。フラデニアの詩を暗唱します」
コーディアは慣れ親しんだフランデール語を、隣国の言葉を口に乗せる。
学校で習ったものを暗唱して見せるとアメリカが「とても美しい発音ね」とほめてくれた。
「ありがとう……ございます」
今この場を乗り切った安堵で頬が少しだけ緩んだ。
「ほんとうね。きれいな発音だったわ。詩はずいぶんと古いものだったけれど」
「南の国の租界の最新流行を教えてくれてありがとう。コーディア」
二人から立て続けに言葉を貰ったコーディアの顔は赤く染まった。ほぼ初対面の人の前で何かを言うことに慣れていないせいもあって、もう何も口にする気力がなかった。
ただ恥ずかしくて悔しくて、コーディアはぎゅっと唇をかみしめた。
どういうわけか彼女はコーディアのことが気にくわないのだ。
コーディアは彼女の視線から目を逸らせた。詩の暗唱の順番はすぐ隣まで回ってきている。
コーディアはうつむいた。どうしよう。
正直に知りませんと言うことは簡単だけれど、無知だと笑われるのは目に見えている。きっと件の令嬢は優しい言葉をコーディアにかけるのだ。しかし同時に彼女はコーディアを嘲笑する。
いよいよ、というとき。
「コーディアさまの代わりにわたくしが二回暗唱しますわ」
鈴を転がしたような声がコーディアの代わりに発せられた。
アメリカである。
「あら、コーディアさまは参加されないの?」
この遊戯を提案した令嬢が不満そうに口を挟む。
「コーディアさまは外国から帰国されたばかりですもの。あちらではフラデニア系の寄宿学校に入られていたと聞いていますわ。インデルクの流行にはまだ慣れていないと思うのです」
「ふうん……」
コーディアの代わりに、はきはきと答えるアメリカを前に、少女は面白くなさそうな生返事をする。
「あら、だったらフラデニアの詩でもよくってよ」
と、別の少女が口を挟んだ。
「えっ……」
「ああそうね」
他の少女も追随した。
話が別の方向に飛んだせいでアメリカも今度は口を開かなかった。他の夫人たちも敢えて口を挟まない。
コーディアに視線が注がれる。
コーディアは息をつめた。こういう風に注目されることには慣れていない。
「租界の寄宿学校では詩など習わないのではなくて?」
「なら一体何を教えてもらっているのかしら」
誰かが憐れむ様に言葉を漏らした。隣の少女が肩を震わせている。
「あなたたち、コーディアさまは緊張されているのよ。そんな風にからかってはだめよ」
ダウエル夫人が少女たちをたしなめる声を出す。
「からかってなどいませんわ。ちょっとしたお遊びにも参加してくださらないなんて、コーディアの方がわたくしたちと仲良くなる気が無いに違いありませんわ」
と、令嬢がぷうっと頬を膨らませる。
ふいにメンデス学長の言葉が思い出された。彼女は最後別れ際に『わたしはあなたに本国にも劣らない教育を施してきました。くれぐれもこの学校で学んだ精神を忘れないよう、日々しとやかに過ごすよう心掛けなさい』
(ここで黙り込んだら、わたし……)
コーディアはありったけの勇気を体中からかき集めた。ずっと黙ったままだとコーディアと一緒に友人たちまで馬鹿にされてしまう。それは嫌だった。
「わ、わかりました。フラデニアの詩を暗唱します」
コーディアは慣れ親しんだフランデール語を、隣国の言葉を口に乗せる。
学校で習ったものを暗唱して見せるとアメリカが「とても美しい発音ね」とほめてくれた。
「ありがとう……ございます」
今この場を乗り切った安堵で頬が少しだけ緩んだ。
「ほんとうね。きれいな発音だったわ。詩はずいぶんと古いものだったけれど」
「南の国の租界の最新流行を教えてくれてありがとう。コーディア」
二人から立て続けに言葉を貰ったコーディアの顔は赤く染まった。ほぼ初対面の人の前で何かを言うことに慣れていないせいもあって、もう何も口にする気力がなかった。
ただ恥ずかしくて悔しくて、コーディアはぎゅっと唇をかみしめた。