侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
その後彼女に聞くと、出席した茶会で件の詩人が話題に出たという。インデルクの流行に疎いから有名な詩人の作品を読んでおこうと思ったとのことだった。
珍しく会話が続いたことに気をよくした
ライルはそのまま彼女が普段どんな本をよむのかを尋ねてみた。何か贈ってもよいと考えたのだ。
少女は少し考え、『ロルテームの本などをよく読みます』と答えた。大雑把すぎて範囲を絞り込むことができない。やはり詩集だろうか、と考えているとコーディアがくしゃみをした。
その日は朝から冷えていた。コーディアは常夏の国で暮らしていたため寒さに免疫がない。ライルは自分の上着を貸そうと思ったが、男の着ていた上着を差し出されても、彼女が困るだろうと思い直し、部屋から出て行った。何か、暖かい物を持ってこようと思ったのだが、ライルが図書室へ戻ると、もうコーディアの姿はなかった。
「ってねえ、聞いている? 僕の話」
ライルの隣で一人延々と新婚の甘々生活を垂れ流していたナイジェルが物思いにふけっていたライルの腕をぐいと引いた。
もちろんそんなもの耳に入るはずもない。大体、こっちが婚約者からいまだに恐がられているというのに、どうして幸せいっぱいな浮かれ話を聞かないといけないのだ。
「きみね、まさかコーディア嬢の前でもそんな仏頂面しているわけ? 駄目だよ、女の子はね、繊細なガラス細工のような存在なんだ。ただでさえきみは人よりも愛想ってものが無いんだから」
ナイジェルがうんうんと頷くから、面白くない。
「別に俺は……」
確かにナイジェルのように内面を顔に出さないが、そこまでではないと思う。面白ければ笑うし、悲しければ涙だって出る。
「もっとさ、いつも以上に大げさに優しい声を出さないとさ。きみみたいな分かりにくいやつはそのくらいしないと。ああそうだ。あとはデートかな。初めてのインデルクならどこがいいかな。劇場や動物園、西大陸自体が珍しいなら百貨店もいいかもしれないね。女性用の雑誌でも最近特集が組まれているし」
ナイジェルは饒舌に語った。先に結婚したせいかすっかり教師の口調だ。
「ちょっと待て。別に俺はコーディアとうまくいっていないわけではない。なんでそれを前提に話しているんだ。大体貴族女性が百貨店ってどうなんだ」
「え、うまくいっていないんだろう。じゃないと男同士の酒の席になんて付き合わないだろう?」
「そういうきみはどうなんだ?」
「僕は今日はライルの相談に乗ってくるって妻にちゃんと言って家を出てきたからね」
ナイジェルは胸を張った。
酒の席の理由までアメリカには筒抜けの用である。
そういえばこの男は婚約をした途端に付き合いが悪くなったとライルは昨年のことを思い出した。誰かがそんなようなことを言っていたのを耳にしたことがあった。
「別に、ただちょっとお互い慣れていないだけだ」
ライルの強がりにナイジェルは苦笑した。つまみのナッツを口に放り込み、もう一杯酒を頼む。
「コーディア嬢はまだこっちに慣れていないからライルが必要以上に気にかけてあげないと。それから、もっと親しくなりたいんだったら、自分の失敗談とか子供の頃の話とか大げさに語って聞かせるのもいいよ。そういうので一気に打ち解けるものだから」
「それは経験談か?」
「え、まあ……ね。アメリカにも色々と話したよ。呆れられることの方が多かったけど」
ナイジェルはそう言ってにかっと笑った。いい笑みだった。
ライルはこれまでの自分の言動を思い返す。声は抑揚をつけずに、ナイジェルらに話しかけるようなそっけないものだったかもしれない。それに、つい叱るような口調だった。
気をかけてるつもりだった。
寒そうにしていたら上着を貸そうと思ったし、彼女と話す努力だってしてみた。市内案内のために主要な建物の建築様式や歴史などを予習もした。
けれど、そういうことではなかったのかもしれない。
珍しく会話が続いたことに気をよくした
ライルはそのまま彼女が普段どんな本をよむのかを尋ねてみた。何か贈ってもよいと考えたのだ。
少女は少し考え、『ロルテームの本などをよく読みます』と答えた。大雑把すぎて範囲を絞り込むことができない。やはり詩集だろうか、と考えているとコーディアがくしゃみをした。
その日は朝から冷えていた。コーディアは常夏の国で暮らしていたため寒さに免疫がない。ライルは自分の上着を貸そうと思ったが、男の着ていた上着を差し出されても、彼女が困るだろうと思い直し、部屋から出て行った。何か、暖かい物を持ってこようと思ったのだが、ライルが図書室へ戻ると、もうコーディアの姿はなかった。
「ってねえ、聞いている? 僕の話」
ライルの隣で一人延々と新婚の甘々生活を垂れ流していたナイジェルが物思いにふけっていたライルの腕をぐいと引いた。
もちろんそんなもの耳に入るはずもない。大体、こっちが婚約者からいまだに恐がられているというのに、どうして幸せいっぱいな浮かれ話を聞かないといけないのだ。
「きみね、まさかコーディア嬢の前でもそんな仏頂面しているわけ? 駄目だよ、女の子はね、繊細なガラス細工のような存在なんだ。ただでさえきみは人よりも愛想ってものが無いんだから」
ナイジェルがうんうんと頷くから、面白くない。
「別に俺は……」
確かにナイジェルのように内面を顔に出さないが、そこまでではないと思う。面白ければ笑うし、悲しければ涙だって出る。
「もっとさ、いつも以上に大げさに優しい声を出さないとさ。きみみたいな分かりにくいやつはそのくらいしないと。ああそうだ。あとはデートかな。初めてのインデルクならどこがいいかな。劇場や動物園、西大陸自体が珍しいなら百貨店もいいかもしれないね。女性用の雑誌でも最近特集が組まれているし」
ナイジェルは饒舌に語った。先に結婚したせいかすっかり教師の口調だ。
「ちょっと待て。別に俺はコーディアとうまくいっていないわけではない。なんでそれを前提に話しているんだ。大体貴族女性が百貨店ってどうなんだ」
「え、うまくいっていないんだろう。じゃないと男同士の酒の席になんて付き合わないだろう?」
「そういうきみはどうなんだ?」
「僕は今日はライルの相談に乗ってくるって妻にちゃんと言って家を出てきたからね」
ナイジェルは胸を張った。
酒の席の理由までアメリカには筒抜けの用である。
そういえばこの男は婚約をした途端に付き合いが悪くなったとライルは昨年のことを思い出した。誰かがそんなようなことを言っていたのを耳にしたことがあった。
「別に、ただちょっとお互い慣れていないだけだ」
ライルの強がりにナイジェルは苦笑した。つまみのナッツを口に放り込み、もう一杯酒を頼む。
「コーディア嬢はまだこっちに慣れていないからライルが必要以上に気にかけてあげないと。それから、もっと親しくなりたいんだったら、自分の失敗談とか子供の頃の話とか大げさに語って聞かせるのもいいよ。そういうので一気に打ち解けるものだから」
「それは経験談か?」
「え、まあ……ね。アメリカにも色々と話したよ。呆れられることの方が多かったけど」
ナイジェルはそう言ってにかっと笑った。いい笑みだった。
ライルはこれまでの自分の言動を思い返す。声は抑揚をつけずに、ナイジェルらに話しかけるようなそっけないものだったかもしれない。それに、つい叱るような口調だった。
気をかけてるつもりだった。
寒そうにしていたら上着を貸そうと思ったし、彼女と話す努力だってしてみた。市内案内のために主要な建物の建築様式や歴史などを予習もした。
けれど、そういうことではなかったのかもしれない。