侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
◇◇◇

 それから二時間ほど時間が経ったところで病院に現マックギニス侯爵、エイブラムが夫人と共に到着をした。部屋の中にはヘンリーと一緒に同行した警察の人間もいる。
「おい、ヘンリー。ローガンを警察につき出すとはいったいどういうことだ?」
「ローガン、お母様たちが来たからにはもう安心ですからね! ちょっとヘンリーあなた、一体どれだけ我が家に迷惑をかける気ですか!」
 夫妻はそれぞれ開口一番にヘンリーに向かって叫んだ。

 コーディアにとっては初めての伯父夫婦との対面である。金切り声をあげる婦人の剣幕に肩を小さく竦ませたが、すぐに察知した隣のライルによって引き寄せられた。
 彼との距離が近くてそれもさっきから落ち着かない。

「そのままの意味だ。我が甥は娘を誘拐した」
「誘拐なんてしていないね。そもそもそっちから訪ねてきたんだ」
「その後の行為についてはどう説明をする?」
 コーディアは薬をかがされ意識が無くなったところを屋敷から担ぎ出された。そこに本人の意思は少しも介入してはいない。

「それは、伯父上を助けようとしてあげたんだ。この娘は伯父上の本当の娘ではない!」
「まったく作り話でももう少しましなものを作れないものか。コーディアとミリーはそっくりだろうに」
「そんなことはどうでもいいんだ! 僕の話と租界で騙された伯父上とじゃあ、みんな僕の主張を信じるに決まっている!」

 ヘンリーはそれ以上は追及せずに背後に控えていた彼の秘書のほうを振向いた。
 秘書は心得たように書類を取り出してヘンリーに手渡した。
「御託はいい。ここにローガン・マックギニスの廃嫡に関する要望書と承認書がある」

「なんだって」
 ローガン親子が顔色を変える。
「どういうことよ! わたくしのローガンを廃嫡にしようだなんて。よくもそんなことを言えたものね!」
「そちらこそ、長男の躾はしっかりとしておくべきだったな。大方の親族の同意は取り付けてある」

 ヘンリーは書類をぺらぺらとめくって同意書に書かれている名前を読み上げて行った。コーディアが初めて聞く名前だが、ヘンリーが読み上げた中には時折どこそこ男爵だとか子爵という名前もあって、それらの名前が出るたびに親子の顔は蒼白になっていった。

「貴様……いつのまに」
「ローガンのこれまでの所業と現在の借金の額、また領地の収支に関する書類を突きつけたら皆、やむなしと同意を示した」
「領地の収支だと?」
 エイブラムが眉を顰める。
「わたくしのローガンが何をしたというの? これは陰謀だわ!」
 伯母が金切り声をあげた。
 ローガンは一言も発しない。

「兄上もグルだと思っていたんですがね。領地から上がる収入と、税金と……、まあ収支が合わないので調べていたんです。ずいぶんと前から」
「こ、こんなのでっち上げだ! 書類を寄越せ!」

 ローガンが突如立ち上がる。その体が小刻みに震えている。
コーディアは話に付いて行けずに目を白黒させるが、とても会話に割り込める空気ではない。
 隣のライルに目をやると彼は険しい顔をしている。
 ローガンがヘンリーのことを掴もうとするが、ヘンリーは逆に彼の腕を捉えた。

「すでに証拠書類は提出済みだし、廃嫡も承認されている。おまえが今更喚いても覆らない」
「僕以外に誰が侯爵家を継ぐっていうんだ!」
「おまえ以外にスペアとなりえる人間はいくらでもいるさ。ともかく、領地での傍若無人な振る舞いも耳に入っているし、借金のこともある。おまえに次代を任せたら代々続いた侯爵家がとんでもないことになる。おまけに私の娘にまで手出しをした。金目当てにしても悪質すぎる。おまえに引導を渡すのも伯父としての役目だ」

「なにを勝手なことを! ねえ、父上も何か言ってください」
 ローガンはエイブラムに助けを請うた。
「そ、そうよ、あなた。こんなの横暴だわ!」
 侯爵夫人のエリーゼも同調する。
「おい、ヘンリー。いくらなんでも……」
「証拠は全て警察と王宮の役人に渡してある。ローガンの廃嫡と逮捕は免れませんよ、兄上」

 ヘンリーは兄の行動を制する。
 弟の台詞を聞いた侯爵は動きを止めた。
 逮捕と聞かされたローガンも一瞬制止したがもう一度暴れ出す。
 しかし、ヘンリーに掴まれた腕はびくともしない。

「私も一応マックギニス侯爵家には責任というものがありますからね。領民のためにもここで膿を出しきっておくことが私の仕事だと思った次第ですよ」
 ヘンリーはそう言って話を締めくくった。

 その後コーディアはライルと共にケイヴォンのデインズデール家へ帰ることになった。
 深夜にもかかわらず玄関広間まで出迎えてくれたエイリッシュは涙を浮かべてコーディアを抱きしめた。
 それからしっかりとお説教もされた。
 心配させてしまったことは事実なのでここでもコーディアは素直に謝った。
どういうわけかライルはずっとコーディアから離れてくれなくて、自分の寝室に戻っても彼のぬくもりが体に染み込んでいるようで困ってしまった。

 困ったのにどうしようもなく胸の奥がざわざわした。
 彼のぬくもりが心地よかった。
 ライルに触れられていると、とても安心したのだ。彼になら触られても平気だった。

 ライルは、コーディアのことをどう思っているのだろう。
 今回の騒動で、やっぱり面倒な家の娘なんて嫁にしておけないと思っただろうか。
 コーディアは寝台の中でなかなか寝付くことができなかった。
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