愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「どうぞ。座ってください」
仲居さんが部屋を出て、座るよう促す彼の言葉に私ははっと我にかえり冬子さんの隣に座る。
私の向かいに腰を下ろす彼と向かい合うと、少し緊張してしまう。
「遠いところご足労いただきすみません。名護清貴と申します」
彼……名護さんはそういいながら、冬子さんへ名刺を手渡す。
それを覗き込むと、『(株)名護グループリゾート取締役副社長 箱根本店支配人 名護清貴』と書かれている。
30代前半といったところだろうか。
まだ若いのに副社長でありながら、ここの責任者も任されているんだ。すごいなぁ。
「清貴さん、こんにちは。本日はお父様は」
「どうしても都合がつかず、東京本社のほうにおります。杉田屋さんにどうぞよろしく、と」
落ち着いた声で応える彼に、冬子さんは笑顔で室内を見回しながら言う。
「さすが名護リゾートさん、外装から内装まで素敵ですね」
「恐れ入ります。杉田屋さんの歴史には敵いませんが、うちなりの良さを出していければと」
そう言いながらもその表情はにこりともしない。けれどピンと伸びた背筋や座る姿、視線を動かす仕草などひとつひとつに品がある。
ついまじまじと見惚れてしまうと、不意にこちらを見た彼と目が合った。