冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい
呼び止める声を背に、走り出した。
アルソートへと向かう先にあるのは入り組んだ森。うまく茂みに隠れれば、隣国の兵をかわせるかもしれない。
『裏から逃げたぞ!追え!』
隙をみて国境の森へと駆け込んだ。
目標もないまま、ひたすら足を動かす。背後の声や足音はまだ遠く、距離があるようだ。
生い茂る木々を縫うように進むと、太い幹が視界に入った。とっさに身を隠してうずくまる。呼吸が上がって苦しかった。
ドクン、ドクン、と心臓が音を立てる。無我夢中で走ったからか、恐怖からか、それすらもわからない。
私は武器も持っていないし力もない。もしも見つかったら、抵抗したところであっさり捕らえられるはずだ。
一体、どうすれば……!
『君に持っておいてほしい。ひとりでどうにもできない危機に陥ったとき、蓋を開いてくれ』
レウル様の声が頭に響いた。
ポケットから取り出したのは懐中時計だ。すがるように胸に抱くと、震える手の中で鎖が小さく音を立てる。
ごくりと喉を鳴らし、意を決して蓋を開いた。
その瞬間、文字盤がまばゆい光を放つ。ところどころ小さな石が埋め込まれており、相当なエネルギーを溜め込んでいたようだ。
キラキラと輝く鉱石は、太陽の光を強く反射している。
『見つけたぞ』