チヤホヤされてますが童貞です
(…綾斗の匂いがする……)

監督から貰ったとかで付けている香水の香りが漂う部屋。
バスタオル一枚で出てきた時の綾斗の狼狽(うろたえ)方を思い出しつつ、ベッドにごろりと横になった。

この間も横になった時に感じだが、いつもここに好きな人が眠っていると思うと、どうしようもない愛しさが湧き上がる。

(……綾斗…)

彼に抱き込まれてるような感覚に安心感を募らせ、1人穏やかな表情を浮かべた。

「っ……私…変態くさい…」

誰に聞かれるわけでもない独り言を溢し、ハッとなった凛は起き上がって再びベッドに腰かけた状態へと戻る。

「………」

一人でベッドの上を堪能したことは黙っておこう。深呼吸を繰り返して、ぼーっと今度は空中を眺めた。

(…そういえばアレとかって…あるのかな…)

避妊具を脳裏で思い浮かべて、唐突な不安に駆られる。

(まさか無しでヤるわけないし…!)

つい最近、凛の同級生がデキ婚したというニュースが舞い込んできた。祝福をしたが、自分はそうなりたくないな、などという水をさす心境を持ったことを覚えている。

(……綾斗との子供…)

オトナの階段を登る、ということは少なからずちょっとは考えてしまうこと。

(でもまだ仕事したいしなぁ…。23で母親は早いよね。)

烏滸(おこ)がましいだろうか。思いあがるな、と揶揄されるだろうか。

自分のことを嘲笑っていると、ベッドサイドにある引き出し付きのサイドテーブルに眼が留まる。

(……いやいや!人様の引き出し勝手に漁るとか…ないない!)

と、自分の頬をつねって戒めるが、心に芽生えた『いけないこと』をしたくなる欲求は消えることなく…。

《ガラッ》

開けてしまった。
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