チヤホヤされてますが童貞です
「お待たせ。」

普通のパジャマ姿で現れた綾斗の顔を見つめ、凛は手を差し出した。

「………しよ…?」
「……うん…」

ベッドに綾斗は膝をつくと、ギシッという音を立てて沈む。

手始めに熱い抱擁から。

(………綾斗は…格好良くて…女性から人気で……)

「……早く…綾斗のものになりたい…」

(そういう経験がない方がおかしいのに…)

伝わる熱が心地よくて、眼を瞑ると降り注ぐキスに善がる。

(………忘れよう。初めてだとか…気にしなくていい…)

「……気にしなくて……いいのに…」
「…?」
「…っ……うっ…」
「えっ…凛…なんで泣いてるの…?」

止め処なく流れる涙に、重たくのしかかった後悔の念。

「……っ…ごめんなさい…」
「………怖い…? したくなくなった…?」
「違うの…」

シーツにシミをつくる滴る涙に綾斗は慌てた。何も良い慰め方が思い浮かばず、声を噛み殺してただひたすらに泣く凛を抱きしめる。

「………勝手に引き出しの中を見ちゃって…」
「……引き出し…?」
「サイドテーブルの…」
「あっ…えっと……」

頭の中で変な物が入っていたか確認するが、思い当たるのはゴムのみ。

「……何も言わずにゴム用意しててヒいた…とか…?」
「……ううん…」

他に何かあるのか考えあぐねていると、凛は口を開いた。

「重たい女だって思ったらごめん…。1つ使ってあって……誰かとしたのかなって思ったら不安で…」
「………はい…?」

予想の範疇から掛け離れた彼女の言葉に、綾斗の視線が揺れる。

「綾斗は格好いいし…女性から人気で優しくて……チヤホヤされることも多くて…」
「ちょ…待って…」
「周りの女の人が放っておけるわけないし……私は初めてだから気を遣わせてばっかりで…」
「あの…だから…」
「知らないのが不安ってだけで泣いて…エッチ中断させるし…」

止まることなく自分への卑下ばかり並べる彼女。おろおろしながら、綾斗は無理やりそんな彼女にキスをした。

その驚きでピタリと話す口は停止する。

それから綾斗は大きく息を吸い込んで、

「聞いて…凛…」

真っ直ぐに眼を合わせた。



「チヤホヤされてるけど俺、童貞だから…!」



それから暫く静寂に包まれる。

初めて言ったセリフ。
恥ずかしいと思っていた自分の経験の無さを初めて威張るように言ったセリフだった。

そして我に返った綾斗は顔を赤くして、説明を始める。

「………1つなかったのは…着けるの練習したからで……」
「えっ…」
「………失敗したくなかったし…何処までも凛の前では格好良く居たかった…。」
「……私の…勘違い…?」

また凛の顔の表情が暗くなっていきそうになったのを瞬時に気づいて、再び口を塞いだ。

「んっ…」
「…自分を悪く言うの禁止。」
「だって…私最低…」
「……やましいことなんて何もないから、詮索されたって嫌な気持ちにならないよ」

信じてないの?と責められそうな状況でも優しく温かく包み込むように接する綾斗。
今度は押し倒して耳の中を舌で弄った。

「……申し訳ないって思うなら……俺とのエッチ、堪能して…?」
「んん……」

耳元で吐息多めに言われると身体がゾクゾクと快楽が押し寄せてきて震えた。

「……初めてだから……上手くできないかもだけど…。」
「………私も…だよ…。初めてだからやり方とかよくわかってない…」

甘酸っぱい雰囲気に包まれて、キスを繰り返す。最初は軽く重ねて、続いて唇を舐めると深くて甘いオトナのキスに変わった。

「……下…触るよ…?」
「うん…」

甘い時間に酔い痴れる。

破瓜はどんなものだろうか。
痛いのか、辛いのか。
涙を流すほどのものなのか。

愛撫を施されながら、そんなことを思う。

「………綾斗…」
「ん…?」

どんなものでも受け入れよう。

「愛してる…」

愛しい彼と一つ段階を進められるのが、堪らなく嬉しいから。

「俺も……」

怖さなんて全く感じなくて、上手いも下手もわからない2人で激しく求め合って。

「……痛くない…?」
「うん…」

労いあって、肌を重ねて。

「………好きになってくれてありがとう…」
「…っ…はぁ…愛してる…。凛……」

堪らなく溢れ出る愛しさと幸せを噛みしめながら…。
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