離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

「いや、別に戦いに赴くわけでは」


 正直、離婚届を書くだけだから三十分もかからない可能性もある。


「あ、そういえば。佐伯さん、社長に私が離婚届を用意してるみたいなこと言った?」


 離婚届を予め用意しておくきっかけになった会話のことを、今思い出して聞いてみた。すると彼女は、きょとんとした顔で数秒考えた後、すぐに思い当たったらしい。


「ああ、いずみさんを預かってますって話をした時だったかな。『離婚届を持って突撃の予定です』って言ったかも。離婚の意思硬そうですよって比喩のつもりだったんだけど」


 なるほど。もしかしたら、それできっぱり、当初の予定に戻す気になったのかもしれない。
 食事を済ませてカフェを出て、佐伯さんと別れるつもりだったのだが、彼女も一緒にタクシーに乗り込みなぜかついてきた。


「それじゃあ、いずみさん頑張って」
「えっと、なんでここまでついてきたの?」
「途中で怖気づいて逃げたらいけないので」


 どうやらよほど信用がないらしい。苦笑いをして、開いたドアからタクシーを降りる。ドアが閉まる前に、車内に残った佐伯さんに声をかけた。


「終わったら、すぐ帰るね」


 佐伯さんの家にまだ荷物は残してあるので、とりあえず今夜もまたお世話になれるようお願いはしてある。


「はいはい、大丈夫ですよ」


 にっこり笑って軽い調子の返事が聞こえ、ドアが閉まる。すぐにタクシーは走り出し、見えなくなった。

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