離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

 私は今も社長秘書として勤めている。
 社内でも夫婦として知られていて、さすがにそれを契約結婚だと知るのは滝沢さんひとりだけだ。他の人に気づかれてはいけないので、会社では今でも社長と呼ぶけれどプライベートでは『和也さん』と呼ぶようになった。勿論彼は、『いずみ』と呼ぶ。

 最初はなかなかおかしな気持ちになったものだが、これも業務と自分に言い聞かせてどうにか慣れた。その必要も、もうすぐなくなるのだが。

 離婚した後も、今の会社で勤めさせてもらうという約束だけれど、さすがに秘書を務めるのはまずいだろうか……またしても周囲から面白おかしく言われそうだし。
 そのあたりのことを、一度話し合っておくべきかもしれない。

 六畳ほどの自室で、ローテーブルにホットコーヒーが入っていたマグカップを置き、数冊のスケジュール帳を整理している途中だ。

 仕事上のスケジュールなんかはタブレットで管理しているけれど、個人的なスケジュール帳も普段からつけている。それについては、いまだにアナログ派だ。
 毎年、好みのスケジュール帳を選ぶのが楽しみのひとつだったりする。予定だけでなく、たまにその日にあった出来事を書き込んでいたりするので、読み返し始めると結構キリがない。

 自分で言い出したことだけれど、なかなか契約結婚なんてのは特殊な経験だったと思う。なんとなく、まだ処分する気にはなれなくて三年前のスケジュール帳も去年のものも、再びキャビネットの引き出しに仕舞った。

 それから空のマグカップを手に部屋を出て、隣の寝室のドアを通過し書斎のドアをノックする。すると、いくつかの物音がして間もなくドアが開いた。休日モードの、緩い部屋着を着た和也さんが顔を出す。

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