離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
何かまずいのだろうか、と思いながらも彼からの反応が薄いので、とりあえず話を続ける。
「新しくマンションを借りるのに、ちょっと図々しいお願いなんですが、和也さんに保証人になっていただきたくて。前にもお話したとおり、父とも母とも疎遠だし連絡取りづらくて」
そもそも前の住所から引っ越したことも話していない。それでも父からも母からも音沙汰がないのだから、気づいてすらいないだろう。つくづく家族の縁が薄い私だが、今更寂しく思うことでもない。ただ、社会に生きていると何かにつけ保証だとかが必要で、そういう時にちょっと困るだけだ。
「まずいですか? ご迷惑なら無理は言いません」
顔の前で両手を組んで考え込む彼に、首を傾げて問う。すると、いいやと首を振って少し遅れて微笑みを浮かべた。
「迷惑なんてことはない」
「そうですか? よかっ……」
「ただ、急いで探すことはない。住むところくらい、こちらで用意する」
さっきまでの様子とは一転し私の言葉を遮る様子にちょっと驚く。彼は柔らかい口調ながらもきっぱりと断言した。
「こちらで、とは?」
「俺が探すよ。三年も、いずみの時間を縛り付けてしまったし」
「元々私が言い出したことだから……」
「だとしても。ぽんと放り出すみたいなことはできない」
三年前、私だってこの会社が好きで、社員を守ろうと身を粉にする彼に感化されて自分で決めたことだ。それなのに、随分と責任を感じさせてしまったみたいだ。
この件に関しては、これ以上言っても譲ってくれそうにない。
「……それじゃ、甘えさせてもらいます」
素直にそう言うと、彼は笑ったがやっぱり何か考えているような、そんな雰囲気を感じる。長年一緒に仕事をしているのだ、少しの表情の変化でなんとなく気づいてしまうことがある。