離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「和也さん?」
どうしたのか、テーブルの上に視線を向けたままの彼に呼びかける。数秒固まっていたように見えたが、次に顔を上げた時にはもういつもの表情だった。
「どうかしました?」
「いや。なんでもない。契約後の話とは?」
そう言ってぱくりとレーズンバターサンドを口の中に放り込み、甘みを緩和させるようにすぐにコーヒーをひとくち啜る。
一瞬、考え込んで見えたのは私の気のせいだったらしい。話の先を促され、ほっとして続けた。
「あの、一応確認しておきたいんですが、私、会社を辞めたくなくて。構わないですよね?」
「当たり前だ。急にいなくなられても困る」
良かった。離婚した後も、置いてもらえるらしい。もちろん、最初にもそう取り決めてあったけど、状況は変わるので再度確認しておきたかった。
私たち本人は問題ないけれど、契約だったと知らない周囲には少々気を使わせてしまうことになるだろうが……。
「円満離婚したってことにして、周囲には和やかにしておきたいですね」
もともと会社のためのものだったのだから、出来るなら社内を悪い雰囲気にしたくない。きっと私たちふたりが明るくいつも通りにしていれば、すぐに通常に戻るだろう。
離婚後の仕事の不安もないとなると、後は。
「それじゃあ、当初の予定に沿って、三年目の結婚記念日に離婚届を提出ということで。そろそろ引っ越しのことも考えないといけなくて」
そこまで話をして、また和也さんがいつもと違うような気がして言葉を止めた。どうもさっきから、彼の言葉数が少ない気がする。
いつもなら、こういう話の時にはあれこれと案を上げてくれそうなものなのだ。