離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 ドアの近くの手すりにつかまり、外を眺めていると寄り添うように和也さんが立ってくれている。他の乗客との壁になってくれているような気がして、悩む。

 いや、たまたま、そんな立ち位置になっているだけかもしれないし。なのに『ありがとう』なんて言ったら自意識過剰のような気が。
 迷いながらふと見上げると、彼の視線は外を向いている。近すぎて直視できない。すぐに逸らして、私は電車内に目を向けた。

 人は多いけど、平日とはやはり雰囲気は全然違う。スーツの男性はいないし、女性もラフな服装が多い。遊びに出かける若者のグループか家族連れか、デートのカップル、そんな感じ。
 ぼんやりとしていると、上から小さな囁き声が降ってくる。


「やっぱり車の方が良かったか」


 問いかけに顔を上げかけて、踏みとどまった。だって、近いんだってば。


「結構、人多いですね。でも平気ですよ。私は電車にしか乗らないですし」


 一応、免許はもっているがすっかりペーパードライバーだ。都会に住んでると電車の方が便利で、私自身は車も持っていない。結婚した時に和也さんの車を使っても構わないと言われたが、とんでもないとお断りした。



< 59 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop