離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
そのうち忘れてしまっていたが、そういえば今なら見えるかもしれない。ふと思い至って顔を上げる。
「水商売っていってもバーの店員やってただけで」
「あ、やっぱりお酒出るとこで働いてたんですね」
「……まあ。たまたま知り合いがいて」
話しながら、首を傾げて近い方にある和也さんの耳を覗き込む。
目を凝らして見ていれば、確かに耳朶にぽつぽつと小さな点がふたつあった。
「っつか、なんでそんな昔の話に」
「滝沢さんと飲みに行くと大抵和也さんの話ですからね、いつも色々教えてくれますよ」
視線が耳から離れて、自然と彼の目と合った。そこで、自分たちが近い距離で立っているのを思い出す。
和也さんが、目を眇めた。少し憮然として見える。
「何を見てんの」
「いえ、ピアスの確認を。失礼いたしました」
目を泳がせて、それから慌てたように見えない速度でのろのろと俯いた。
「あいつはほんとに余計なことしか言わないな」
なんだかとても、耳が熱い。早く駅に着かなければ、のぼせてしまいそう。