離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 戸小坂駅は、こじんまりとした駅だった。降りる人がほとんどいなかったのは、この駅には休日に遊びに来るようなレジャーポイントや商業施設が少ないからだろうか。


「住むには穏やかそうで良い駅ですね」


 駅から左右に伸びる道を、どっちに向かうかでなんとなくじゃんけんをする。


「俺の勝ち」
「じゃあそっちで」


 和也さんの立っている方へ進むことにした。
 なんといっても、行く当てがあるようで、ない。目的は住みたいと思う駅の散策なのだから。

 てくてくと歩く間、しばらく無言が続いた。こういう風に歩くのは初めてだなと、なんとなく意識してしまう。
 いつもは仕事の話をしているか、出勤途中か日々の買い物にたまに付き合ってもらうかとにかく行先がはっきりとしていた。しかし今は、駅周辺の住み心地を確かめるという目的はあれど、それも漠然としていてしかも何を見つけたら終了、というのも曖昧だ。


「えーっと……近くの銀行と郵便局は確認しておきたいですね」


 せめて歩く目的だけははっきり認識しておこうと、口にする。和也さんは「ううん」と小さく唸りながら顎に手をやった。


「それは会社の周辺にあるだろ。時間帯からしてそっちの方が利用度高そうだし。それよりスーパーとか病院とか」
「あ、それもそうです」


 できれば総合病院が近くにあれば手っ取り早い。いや、でも婦人科系の病院は個人でもいいから良いとこ探したいな、そろそろ年齢的にも検診とか気を使わないといけないし。
 婦人科云々は口には出さず、歩きながら病院や店舗に目を向ける。しかし、こちら側は小さな店がぽつぽつあったあとはひたすら住宅が続いた。

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