離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

 案外、人が悪い。

 斜め後ろをついてくる足音を聞きながら、ぱたぱたと手で顔を仰いだ。こんな、今までにない状況にいるから余計に調子が狂ってしまうのだ。

 いつもは沈黙もそれほど気にならないのに、今は少しだけ息苦しいような気がした。目が話題を探して周囲を見渡す。
 トイプードルだろうか。可愛い小型種の犬を連れて散歩をしている女性が、進行方向のずっと先で目に入った。


「あ、わんちゃん。いいな、可愛い」
「ああ、いいな。飼いたいのか?」
「いいかも。猫よりは犬派です。どっちも好きですけど」
「だとしたらペット可のマンションか」


 うまい具合に会話が流れてくれてよかった。


「ペット可のマンション、高いでしょうか? でも、いいなあ。わんちゃん……」


 とことことこと小さな歩幅で歩くワンちゃんは、とても可愛い。お世話は大変だろうけど、長い人生で一度くらいペットのいる生活を経験してみるのもいいかもしれない。

 ひとり暮らしに戻るのに、寂しさを紛らわせられるかもしれないな、と考えて。いや、寂しいと思っているのか、と自問自答する。


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