離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

 ――そうだ、彼には、大事な人がいると知っていたのに。

 同時に、すっと感情が冷えていく。
 今日一日、秘書としてだけでなく単なる同居人としてもふさわしくない雰囲気に飲み込まれていた。そんな自分が信じられない。

 ひどく図々しい感情を持ち始めていたことに、恥ずかしさが込み上げた。別に、私の前で出られない電話だって、あって当たり前だ。あくまで私は秘書であって、プライベートにかかわってはいけないのだから。


「いずみ?」


 和也さんが、驚いた顔で振り向いている。私が立ち止まって、握られていた手をするりと抜いたからだ。


「あ、すみません。ちょっと汗かいてきちゃったので」


 にこりと笑ってそう言うと、再び歩きだして彼を追い越し、マンションのエントランスに入る。すぐ後を彼が追ってきているのを感じながらセキュリティゲートを通った。


「結構、歩きましたね」
「そうだな」
「ちょっと疲れたので、部屋で休むことにします。今日は、わざわざ付き合っていただいてありがとうございました」


 明らかに空気が変わってしまった。もう少し自然な感じでいつもどおりに戻れれば良かったのだけれど、上手くできなかったようだ。当然、和也さんも気づいたんだろう。


「……やりたくてやったことだ」


 戸惑ったような声が、エレベーターホールに響く。

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