【完】Dimples 幼馴染のキミと僕

こちらへ穏やかな表情を見せる父に微笑み返す。

母と同じくらい、父もまた穏やかな人だった。…けれどそこは1代で会社を築き上げた人。穏やかさの中に人に有無を言わせない強さも持っている人なのだ。

私は本当は中学は潤と同じ公立へ進みたかった。その気持ち、きっと理解していたと思う。

けれど小学生の私に中学受験を勧めたのも父であった。私は潤と同じ公立の中学に行きたい。誰も知らない場所へ行くのは怖い。喉元まで出かかって止めた。

真っ直ぐに私を見つめる父の口から「菫も行きたいよな?」と言われたからだ。そんな時は決まって「うん」と返していた。

私は両親に反抗をした事がない娘だ。父や母の言う事が全て正しいと信じ…。信じ?信じていた訳ではない。

信じたかったのだろう。まさかこの私が反抗して、彼らに幻滅をされたくはなかった。



夕食後、母がお気に入りの茶葉で紅茶を淹れてくれ、他愛のない話をしている時だった。

元々お喋りな大地が久々に帰ってきて、明かりが灯ったように明るくなった食卓で、仕事の話最近あった話を延々と繰り返す。

私がそうであるのならば、大地も同じ境遇で育てられた。けれど、彼はその環境にひとつも不満や疑問を投げかけることなく、明るい子に育ってくれた。

それならば私もそうで在らなくてはいけなかった筈なのに……

不満なんてひとつも無かった筈なのに…どうしていつも心の片隅で疑問ばかり。どうして私だけ…なんて思っても無駄な事ばかり。

「それはそうと菫に良いお話があるんだが」

「え?!」


< 29 / 321 >

この作品をシェア

pagetop