【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
こちらへ穏やかな表情を見せる父に微笑み返す。
母と同じくらい、父もまた穏やかな人だった。…けれどそこは1代で会社を築き上げた人。穏やかさの中に人に有無を言わせない強さも持っている人なのだ。
私は本当は中学は潤と同じ公立へ進みたかった。その気持ち、きっと理解していたと思う。
けれど小学生の私に中学受験を勧めたのも父であった。私は潤と同じ公立の中学に行きたい。誰も知らない場所へ行くのは怖い。喉元まで出かかって止めた。
真っ直ぐに私を見つめる父の口から「菫も行きたいよな?」と言われたからだ。そんな時は決まって「うん」と返していた。
私は両親に反抗をした事がない娘だ。父や母の言う事が全て正しいと信じ…。信じ?信じていた訳ではない。
信じたかったのだろう。まさかこの私が反抗して、彼らに幻滅をされたくはなかった。
夕食後、母がお気に入りの茶葉で紅茶を淹れてくれ、他愛のない話をしている時だった。
元々お喋りな大地が久々に帰ってきて、明かりが灯ったように明るくなった食卓で、仕事の話最近あった話を延々と繰り返す。
私がそうであるのならば、大地も同じ境遇で育てられた。けれど、彼はその環境にひとつも不満や疑問を投げかけることなく、明るい子に育ってくれた。
それならば私もそうで在らなくてはいけなかった筈なのに……
不満なんてひとつも無かった筈なのに…どうしていつも心の片隅で疑問ばかり。どうして私だけ…なんて思っても無駄な事ばかり。
「それはそうと菫に良いお話があるんだが」
「え?!」