愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「料理長の河本です。そうですか、あなたが菜緒の……」


母か兄にお見合いの話を聞いていたのだろう。河本さんは鷹揚に笑い、唸るように頷いた。


「菜緒は昔っから妹みたいなもんでして、甘えん坊だけど素直でいいやつなんで、どうかよろしくお願いします」


河本さんに背中をばしんと叩かれた私は、体に力が入らずつんのめりの体勢になった。


「お会いできてよかったです」


月島くんは低く澄んだ声でそれだけ言い、両目を細める。
微笑み方は優しいけれど、翳を帯びたどこか冷たい表情だった。


「行こうか、毛利さん」


伸ばした手で迷いなく私の手を掴み、グイッと強く引っ張る。
体勢を整えたばかりの私は再び前のめりに月島くんに引き寄せられた。


「え⁉ ちょ、ちょっと待っ」


私の戸惑った声にも構わずに、月島くんは大股でズカズカと車の方に進んだ。
助手席のドアを開け、私の肩にそっと触れて乗るように促す。

月島くんの車は有名な高級車だった。
私はあまり車に詳しくはないけれど、兄が車を購入しようとしていた機会に雑誌で見た。
たぶん、一千万円近くするのではないだろうか。


「どうしたの?」


自分で予想した桁外れな金額に呆然としていると、運転席に座りシートベルトを締めた月島くんが不思議そうに言った。


「あ、ううん……お邪魔します」


恐る恐る乗り込んだ私もシートベルトを締める。
その際、視界に入った自分の私服に愕然とした。
ゆるシルエットの麻素材のパンツにボーダーのカットソー、羽織りの白いパーカー。

家から職場まで数歩で着くため、気を抜いた部屋着のような格好。ドレスコードなんてないにしても、高級車にはそぐわなすぎる。

どうしよう、今から着替えに帰るのもなぁ、なんて気を揉んでいると、ヘッドライトを灯し車が発進した。


「毛利さんのお母さんに、明日休みだって聞いて」
「え! そうなの?」


母と連絡を取っていたなんて、知らなかった。
< 17 / 119 >

この作品をシェア

pagetop