愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「乾杯」


グラスを傾けて、月島くんが微笑む。
すごく気障な仕草だけれど、月島くんが披露すれば嫌悪など微塵も感じない。
いつここに女子を誘っても、こうしてスマートにもてなせるんだろうな。

高そうなワイン、グラス、それにこの視界を奪って止まない夜景。
油断するとすぐに、非現実的な状況に酔いが回ってしまいそうだ。


「アテになるものがなにもないな」


冷蔵庫の扉を開けて中を覗いた月島くんが平坦な口調で言った。


「なにか作る? 私、手伝うよ」
「ごめん、食材自体がなにもないんだ」


私も背後から冷蔵庫を中を眺める。飲み物以外、なにもない。
どうやら月島くんはゼリー飲料で栄養を補っているらしい。


「残念。なにかあったら毛利さんの手料理が食べられたかもしれない」


眉を下げ、冷蔵庫の扉を閉めた月島くんが肩をすくめた。


「手の込んだものは作れないよ? お口に合うかもわからないし」
「普段から料理はするの?」
「小さい頃から、暇さえあれば料理を教えてもらえる環境にいたから」
「さっきの料理長に?」


これまでより硬質な声色で言い、月島くんは私に向き直った。


「そう。和食の基本なんかを、ときどきね」


小さく笑って、私は懐かしさに目を細める。
だし巻き卵、茶碗蒸し、天ぷら。
教えてくれるのはいつも、私が好きな料理だった。

いつか河本さんから教わった料理を、もっと自分なりにマスターして河本さんに食べてもらう日を夢見ていた。
もう叶うことはないけれど。


「河本さんって、毛利さんにとって〝ただの職場の人〟っていう関係じゃないんだろ?」


ソファに隣り合って座り、長い足を組んだ月島くんが落ち着いた口ぶりで言った。


「顔に出てるよ」
「え! か、顔⁉」
「毛利さんってわかりやすいよね」
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