愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~

思い出せずに頭を悩ませていると、予約の時間になった。
私は強張った面持ちで藤井さんをお迎えした。


「いらっしゃいませ、藤井様」
「こんばんは、菜緒さん」


深々と頭を下げ、玄関で脱いだ革靴を下駄箱に仕舞う。
たしか予約は二名で入っていたはずだけど、藤井さんひとりだったので、お連れの方はのちほどお見えになるのかなと思った。

部屋に案内し、おしぼりを手渡す。ファーストドリンクのオーダーを取った。


「お連れ様は何時頃お見えですか?」


料理を配膳するタイミングの関係で、厨房に伝えておくために私は聞いた。


「実は、急遽来られなくなったんだ」
「え、っと……では、今夜は藤井さんおひとりで?」
「ええ」


藤井さんは平然と頷いた。


「せっかくだし、キャンセルするのも悪いし。僕ひとりでお料理を頂こうかと」


予約は二名からなんだけど、こういう場合は仕方ないか。
ご常連様だし、融通を利かせた方がいいよね。


「そうですか、かしこまりました」


膝を折って話を聞いていた私が立ち上がろうとしたときだった。


「菜緒さん」


サッとこちらに近寄った藤井さんが、立ち膝の体勢になって私の手を引いた。


「は、はい」
「先日の手紙、読んでくださいましたか?」
「えっ……」


私は声を裏返らせた。
中腰のまま、時間が止まったかのように静止する。
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