愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「困らせてすみません、どうしても僕の気持ちを知って頂きたくて」
「えっと、はい、読みました。お気持ちはありがたいのですが……」
声が震えた。
藤井さんが私の手首を掴む力が、思いの外強くて痛い。
「菜緒さん」
なんだか怖い。
藤井さんの声も、いつもと違うような気がする。
普段はもっと品のよいトーンというか、落ち着いた話し方なのだけれど、今は切羽詰まった張りつめた感じが伝わってくる。
「は、はい」
恐る恐る振り向くと、藤井さんは眼鏡のレンズの奥の瞳をきつく細めた。
「ご結婚される方とは、お見合いで知り合ったと女将さんから聞きました」
これまでの温和な態度からは想像がつかない、蛇のような睨みをきかせて私を見る。
「僕にはもう、チャンスはないですか?」
「す……すみませんけど、」
「ずっと好きだったのに、どうして僕じゃないんですか⁉ 無理してこんな高級料亭に足繁く通っていたのはすべて、菜緒さんに会うためだったのに。僕の気持ちを蔑ろにするつもりですか⁉」
「え、えっ⁉」
そこでグッと胸元に引き込まれ、私は体のバランスを崩した。
「きゃっ!」
体がふらついて膝から雪崩れ込むように、このままでは藤井さんの体にぶつかる! と恐怖を抱いたとき、部屋の引き戸がすっと開いた。
「失礼します」
予想外の展開に驚いた藤井さんが咄嗟に立ち上がって戸の方を見たので、私はその隙になんとか体を翻し、藤井さんにダイブするという事態を回避できた。