愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~

「ただ驚いて声を上げてしまっただけでして」


そう思い、なんとかフォローしようとした直後。


「……月島不動産の専務が、菜緒さんの夫⁉」


それまで硬直していた藤井さんが、目を泳がせて立ち上がった。
みるみるうちに血の気が引いたのか、一気に顔色が青くなり、萎縮したように肩を上げた。

藤井さんはどうして涼介さんを知っているのだろう、と私は頭の片隅で思った。


「そうです。行員の方だそうですね。今後ビジネスでご一緒する機会もあるかもしれませんから以後見知りおきをお願いします」


藤井さんを冷たい目で見下ろした涼介さんは、私のもとに歩み寄るとそっと肩を抱いた。
その怒りに満ちた外見と、柔らかい仕草があまりにも対照的すぎて、私は呆然とする。


「今後うちの妻に手出ししようものなら、その必要はありませんけど」


では、と語尾に付け足して、涼介さんはまだ仕事が途中の私を連れて部屋から出た。


「あ、あの、ちょっと……⁉」
「大丈夫、菜緒のお母さんに話せばわかってくれるよ。俺が彼を警戒していると話したから」


涼介さんが足を進めるスピードは速い。
よっぽどこの場から早く立ち去りたいようだった。
私は足をもつれさせ、着いていくのに精一杯。


「……本当は嫌なんだ、菜緒が、ほかの男を接客するのが」


風を切るようなスピードで廊下を歩いている最中、消え入りそうなか細い声で涼介さんがつぶやいた。


「え……接客?」
「酔ってる男に絡まれたらこないだの結婚式のときみたいに逃げられないだろうし、いつまた今みたいな状況になるかだってわからないだろ?」


瞬きを繰り返す私を見下ろして、涼介さんが足を止めた。
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