泡沫夢幻
おじさんも同じように目に涙を溜め、叔母さんの背中をさすった。理由を聞こうと思ったが、幕が上がり、演奏が始まったので聞けなかった。
「本日はご来場いただき誠にありがとうございます」
動揺や地元に伝わる歌など5曲ほど歌いきり、拍手が鳴り止まない会場に茜先生の優しくて力強い声が響く。
声楽団のメンバー紹介が続く。
「最後まで楽しんでください」
そう言い切った茜先生はニコッと笑って深くお辞儀した。
「それでは本日最後の曲となります」
アナウンスがかかり集団の中から水瀬が前に出てくる。
その目はこちらから見てもよくわかるほど赤かったが、涙はなく、はっきりと祖父母を捉えた。
ニコッと笑いかけて、いつもの透き通る声で話しはじめた。
「はい、次の曲は声楽団のオリジナル曲です。今回伴奏を努めます、水瀬と申します。
この曲の歌詞は声楽団のメンバー全員で考えました。
私たちは小学生から50代、60代と幅広い年齢層で構成されています。今は3期生を中心にここにいる20人で活動しています。
初期立ち上げメンバーである15名の偉大なる先輩方は先日の定期公演をもって、全員が卒業されました。先輩方から声楽だけではない沢山のことを学びました。そんな感謝と共に、これからへと繋げる決意を歌詞にしました」
水瀬の紡ぐ言葉の1つひとつはまるで月の下で輝く花のように、美しかった。あちらこちらから鼻をすする音が聞こえてくる。おじさんとおばさんは共に肩を抱き合いながら大粒の涙を流して、しっかりと水瀬を見て笑った。
声楽団のメンバーは目を腫らしながらも笑顔で。水瀬もおじさんとおばさんに笑みを返して、それから俺の方を見て一つうなずいて言った。
「それではお聞きください。
『一歩ずつ、前へ』」