寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
その日、昼食も取引先の接待で済ませたため、結局日中に雪乃への連絡はできなかった。代わりに最速で仕事を終わらせ、部下の進捗も滞りないと確認し、午後六時に終業して会社を出る。
とにかく彼女に電話だ、と目をギラギラさせながら駅へ向かう。
晴久は雪乃のことで頭がいっぱいで、習慣になっていたはずの眼鏡とマスクすらつけ忘れていた。
電車が来るまであと数分、晴久は待ちきれずにスマホを操作し、耳にあてた。
呼び出し音が鳴っている。祈るような気持ちで待っていた晴久だが、いっこうに彼女は出ない。
(雪乃……)
もちろん料理や入浴をしていて着信に気付かない可能性は大いにあるが、今まで彼女が電話に出ないことはなかった。
晴久は彼女は今回出ない選択をしたのでは、という予感がし、心臓が重苦しく揺れていた。
電車に乗ってもその鼓動は収まらず、ガタンゴトンという揺れとは別にドクンドクンと胸が痛む。
座る気にはなれず、ドア付近の吊り革に掴まり、足を棒にして立ち尽くしていた。
(会って話がしたい。今夜会わなきゃダメだ)
ショックで我を忘れそうだったが、解決へ向けて何度も冷静になろうとした。
会えばなにかが変わるはず、そんな希望を持ち、電車を降りた。