寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~

しかし次の瞬間。
突然、頭上の電気が消えた。

頭上だけではない。席の上に一列に並んでいる車内灯は、車体の奥へ向かって次々に消えていく。チチチと音を立て、すごい速さですべての車内灯が消えると、車内が暗闇になった。

(えっ!? 真っ暗!?)

続いて電車が大きく減速し始める。

(やだ!! なに!? なにが起こってるの!?)

雪乃は座ったまま、膝の上で鞄の紐を握りしめ、なにも目に入らないよう視界を下に落とした。

一瞬だけ車内は窓の外の暗闇と同化し、電車は完全に停止する。悲鳴を出しそうになったが、その前に出入口付近の予備電灯がぽっかりと点灯した。

人の輪郭だけがかすかに分かるくらいに薄暗く照らしだされている。車輪の音、空調の音はいっさい消え去り、感じたことのない静寂だけがあたりを包んだ。

「……はっ……はっ……」

あまりの事態に雪乃は過呼吸に陥った。
周囲に悟られないよう手で口を隙間なく押さえるが、代わりに鼻の呼吸がパニックで乱れ、肩やら腹筋やらが連動してガタガタと揺れる。

『お知らせ致します。この電車は停電により一時停車しております。ただいま原因を調査中ですので、座ったままでお待ちください。なお、線路上は危険ですので、ドアの開閉、線路への降車はなさらないようお願いします』

(停電……!?)
< 15 / 247 >

この作品をシェア

pagetop