寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「あ、あの?」
一歩先を歩く伊川は、なぜかファミレスを通りすぎた。二区画進み、左に曲がって裏手に入る。
道は細くなったが小さな飲み屋が並んでおり、人通りは多かった。
不安げに伊川の裾を引っ張ってもう一度「あの」と声をかけると、彼はクスッと笑う。
「俺がいつも行くのはこっちなんだ」
そう言って彼が立ち止まったのは、
『Bar Ocean』と書かれた札のぶら下がった真っ黒な扉の前。
「バー……ですか? すみません、私、お酒はちょっと……それにこういうお店は来たことないので」
「大丈夫大丈夫。別にお酒飲まなくていいよ。今の時間は早いから空いてるし、ゆっくり話せるだろ? ファミレスだと騒がしいから」
「あっ、ちょっと……! 伊川さん!」
強引に二の腕を掴まれ、扉の中へと引き込まれていく。反抗できずに低いヒールの足はもつれ、伊川にされるがままとなった。
恐怖を感じた雪乃だが、店の中に優しげなマスターのほかに若い女性のウェイターもいると確認し、なんとか自分を落ち着ける。
すべてがウェスタン風の木製で、薄暗い室内は間接照明で照らされている。バックバーには雪乃の見たことがないボトルが無数に並んでおり、伊川は迷わず、カウンター席に座った。