寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「俺ですよ、俺」
『お前……伊川か!? ふざけるな! 雪乃はどうした!』
恋人の声にきづいた雪乃は目蓋が下がりながら「はるひささん……?」とつぶやくが、とても通話の向こうへは聞こえない。
「ちょっと意気投合しちゃいまして。楽しく遊んでたところです。彼女はもう眠っちゃいましたけど、なにか用でした?」
『……自分がなにをしてるか分かってるのか? 俺の恋人を今すぐ電話口に出せ』
「ええ? 高杉課長の恋人だったんですか? てっきりフリーだと思ってました。だって声かけたらついてきたし、今は俺の横で寝てますよ」
通話はブチンと切れ、伊川は「怒ってる」とつぶやいて笑う。
「伊川さん。店内でもめ事は困りますよ」
マスターはほかの少ない客たちに目を配りつつ、伊川にそう忠告する。
伊川はヘラッと笑い、ぼんやりとした意識の雪乃の肩に手を回して立たせた。
「大丈夫大丈夫。どこにいるかは教えてないから」
自分でそう言いながら、伊川はふと、そういえばなぜどこにいるか聞かれなかったんだろうと疑問を浮かべつつ、まあいいかと歩きだす。
「ん……離して、ください……」
「はいはい。おとなしくして。とりあえず酔ってるし、どこか休憩でも入る?」
彼女にそう囁いて店を出ようとした、そのとき。
先に外から扉が開けられ、そこにはまるでヤクザのような鋭い人相の晴久が立っていた。