寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「……伊川の担当先の『トーワシステムズ』だが。一度お前に商品の改良について相談をしたが返事がなく、その間にフォローの手厚い他社へ契約変更する予定が立っているらしい」
「はあ!? えっ、えっ?」
「さっき社長から俺に直接連絡があった。社内から契約変更をしたいと申し入れをされていて、あとは社長が承認すれば完了するそうだ」
伊川の顔はみるみるうちに青くなり、その場にしゃがみこんだ。
トーワシステムズは重要取引先で、収益に大きく貢献している。伊川のせいで契約が打ち切られるような事態になれば、責任追及は免れない。
「そ、そんなっ……やばい……トーワシステムズを失うようなことは、絶対……どうしよう……どうしたら……」
「わかったか。真摯に対応しなければ人は離れていく。その場限りの振る舞いを改めろ」
「そんな……」
伊川はうなだれ、力が抜けた体は歩道に倒れこんでしまいそうだった。挑発的だった態度は絶望的なものへと変わる。
伊川は雪乃の言葉を思い出した。
『晴久さんは、ずるい手を使って誰かを貶めるような人ではありません』
ずるい手を使い続けていたのは自分で、晴久にはそれを見抜かれていた。雪乃のことも騙して腹いせのために利用した。
それは仕事においてもそうだったのだ、と伊川は初めて自覚した。