寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~

「……雪乃」

「はい」

ふと名前を呼ばれ、腕に埋もれていた顔を向ける。

「近いうち、雪乃のご両親にごあいさつに行きたいな」

微笑む晴久だが、真面目な面持ちで決意を口にしていた。

「……え」

「ずっと考えてたんだけどさ。一緒に住んでることをいつまでも黙っているわけにはいかないと思うんだ。雪乃をお預かりしてるってきちんと報告しないと」

またプロポーズかと勘違いした雪乃は力が抜けたが、それでも同棲のルールなど分からず、口をパクパクさせる。

両親に恋人を紹介した経験はもちろん一度もない。母親には言いやすいが、父親に話すとなると気恥ずかしかった。

「も、もちろん大丈夫です。でも実家は千葉ですし、わざわざ晴久さんに来ていただかなくても私から電話で伝えますが……」

「全然近いじゃないか。行くよ。顔を見せるのが大事だから」

「そうなんですか?」

「うん。俺が雪乃の父親だったら、東京で男と暮らしてるなんて聞いたら心配でたまらないよ。どこの野郎だ顔見せろって思うね」

「野郎って! ふふ、晴久さんたら」

クスッと笑ったが、どうやら晴久は冗談ではないらしい。
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