寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「お待たせー」
声をかけると、父と母がすでに片側に並んで座っていた。
「ああ雪乃、晴久くん。来たのね。どうしましょ、お父さんもう飲んじゃってて」
「え?」
困った顔の母が隣でうつむいていた父の肩を叩くと、彼は顔を上げた。
雪乃が思わず「うわ」と声をもらすほど父の顔は真っ赤で、目にした晴久も苦笑いになった。
父の前のテーブルには、すでにビールジョッキが二本空いている。
「もうお父さん! どうして先に飲んじゃったの? せめて私たちが着いてから乾杯してよ」
雪乃はコートやらマフラーやらを晴久の分までお店のハンガーにかけ、腕をひいてプンスカ向かいの座布団に座った。
父は眉をひそめる。
「雪乃ぉ。職場の上司とホイホイ付き合うとは、東京は随分な場所なんだなぁ」
「え? なに言ってるの?」
「俺と母さんは出会ってから二年もかかったんだぞ。それを、お前……」
「ちょっとお父さん、雪乃たちの前でそんな昔のこと。恥ずかしいですからっ」
母は旦那の肩をペシンと叩きながら、まんざらでもなさそうな顔で店員を呼びとめ「ビールふたつ追加で」と注文した。