谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
リリは仰天した。
「ま、まさか……そんなことあるはずが……」
……今の自分の言葉から、いったいどうしてそのような話になるというのだろう?
「あなたは、婚約不履行による違約金および慰謝料を気にして、『生まれや育ちに隔たりのない男』のことを否定するのではないのか?」
大尉は訝しげにリリを見た。
「私……そんな卑怯な真似はしなくてよ」
青白かったリリの頬に、すっと赤みが差した。
「万が一、私にそのような方がいるのであれば、あなたに正直にお話をして許しを乞うわ。
……神に誓ってもよくてよ」
貴族階級から見れば下賤に映る商家の生まれであっても、矜持というものはあるのだ。
「それに、今回の件に関して発生したあなたへの『お詫び』は、私自身が責任を持ってきちんとお支払いするつもりよ」
「リリコンヴァーリェ嬢、
それを履行するのは『あなた』ではなく……『あなたの父親』なのでは?」
大尉は腕を組んで、冷ややかに問う。
「いいえ、『私』よ。
私には、結婚する際に父から譲られる持参金があるもの。そちらをそっくりそのまま、あなたにお渡しするわ。あなたが私と結婚することで受け取れるはずだったものよ」
リリはきっぱりと言い切った。
……慰謝料として払った持参金の残りは、教会などへの慈善活動に寄付しようかと思っていたけれど、しかたがないわね。
でも、ここまですれば、さすがに彼の男爵家も「納得」するでしょうよ。