谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜

リリは仰天した。

「ま、まさか……そんなことあるはずが……」

……今の自分の言葉から、いったいどうしてそのような話になるというのだろう?

「あなたは、婚約不履行による違約金および慰謝料を気にして、『生まれや育ちに隔たりのない男』のことを否定するのではないのか?」

大尉は(いぶか)しげにリリを見た。

「私……そんな卑怯な真似はしなくてよ」

青白かったリリの頬に、すっと赤みが差した。

「万が一、私にそのような方がいるのであれば、あなたに正直にお話をして許しを乞うわ。
……神に誓ってもよくてよ」

貴族階級から見れば下賤に映る商家の生まれであっても、矜持(プライド)というものはあるのだ。

「それに、今回の件に関して発生したあなたへの『お詫び』は、私自身が責任を持ってきちんとお支払いするつもりよ」

「リリコンヴァーリェ嬢、
それを履行するのは『あなた』ではなく……『あなたの父親』なのでは?」

大尉は腕を組んで、冷ややかに問う。

「いいえ、『私』よ。
私には、結婚する際に父から譲られる持参金があるもの。そちらをそっくりそのまま、あなたにお渡しするわ。あなたが私と結婚することで受け取れるはずだったものよ」

リリはきっぱりと言い切った。

……慰謝料として払った持参金の残りは、教会などへの慈善活動に寄付しようかと思っていたけれど、しかたがないわね。
でも、ここまですれば、さすがに彼の男爵家も「納得」するでしょうよ。

< 43 / 67 >

この作品をシェア

pagetop