谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
大尉の、ミルクのたっぷり入った珈琲の色をした瞳が、かっと見開かれた。
「リリコンヴァーリェ嬢……それは……」
しかし、次の瞬間、彼は気まずそうに目線を落とした。
「だが、私は……あなたをまた舞踏会に誘うどころか、ようやくあなたと会える機会が与えられても……あなたを避けるようになってしまっていた……」
「グランホルム大尉……」
リリは目線を落とした彼と、なんとか視線を合わせようとして彼の顔を見た。
すると、不意に、彼の視線が上がった。
二人の目が合う。
「リリコンヴァーリェ嬢、すまない……
実は私は、あなたのような美しい女性とは……
なにを話していいのか、皆目わからないんだ」
彼の表情は、苦痛に耐えるがごとく歪んではいたが、心なしか、その耳が朱に染まったように見える。
「あなたとの縁談が持ち上がり、あなたの写真が送られてきたとき……私はあなたを、なんて美しい女性なんだろうと思った」
大尉には、画家に描かせたリリの肖像画ではなく、技師に最新の写真機で撮ってもらったリリの写真を送っていた。
肖像画では、どうしても画家が「親切心」から「欠点を抑えて」美しく描いてしまうからだ。
リリは「夫」になるかもしれない男性には、最初からできるだけありのままの容姿を見てもらいたかった。
「顔合わせで初めて会ったときには、写真以上に美しい女性だとびっくりしたよ。
だから、実際に話してみて、あなたに……『つまらない男』だとは失望されたくなかった。
私には……アンドレみたいに、女性が喜ぶような気の利いた話題は提供できないからだ。
そして……」
大尉はそこで一瞬、言い淀んだ。
「グランホルム大尉……?」
しかし、意を決して彼は告げた。
「あなたに……結婚相手がなぜ、男爵家の嫡男の方ではないのか……海軍の軍人というだけの男と結婚しても、男爵の令夫人に……貴族にはなれないではないか……『弟』よりも『兄』の方がよかったのに……と思われたくなかったんだ」