谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜

「まぁ、そんな……いけないわ……グランホルム大尉……」

リリは大尉に取られた手を引っ込めようとした。

しかし、彼はその手をきゅっと握って、決して離すまいとした。

「まだ、ほかに私と結婚できない理由でも?
そういえば……確かあなたのミドルネーム……カトリックなら洗礼名になろうが……カタリナ、であったな?」

リリはこくりと肯いた。
とたんに、大尉の顔が歪んだ。

リリの洗礼名のカタリナは、十四世紀の昔、スウェーデン国内に女子修道院を創設したビルジッタを母に持ち、自身も一心に神に仕えたことから、母子二代で教会から「聖女」として叙されていた。

「まさか……あなたはあの(・・)聖女カタリナのように、たとえ私と結婚したとしても、なにがなんでも『純潔』を守るつもりだったのではないだろうな?」

カタリナは父の命令でドイツの青年貴族と結婚をしたものの、母の創った修道院で「神の花嫁」として一生を過ごす夢が諦めきれず、夫に懇願してそのような取り決めをしたという。
そして、その夫が早世したこともあって、彼女は無垢な身体(からだ)のまま、その生涯を修道院で(まっと)うしたと伝えられている。

「いくら気にするほどの血筋でないとはいえ……さすがに、初めから子を持たぬ取り決めをするのは……」

青ざめた顔で大尉はつぶやいた。

「……だが、あなたがどうしても、というのなら……」

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