ゾーイ・テイラー〜温もり、のちにキス〜
「まあ、体調はマシになった。……ありがとう」

「どういたしまして!」

ロネはニコリと笑い、ゾーイをふわりと抱き締める。あの魔族にゾーイが攫われていたら、きっとこんな風に胸を高鳴らせることはなかっただろう。ロネの中には安心があふれていた。

「兄ちゃん、お嬢さんの体調もよくなったことだし、そろそろ何があったか教えてくれないかい?」

酒場の店主がそう言い、ロネは「そうですね」と真剣な顔になる。そして隠すことなく全てを話した。店主は「やっぱり……」と呟く。

「何か知っているの?」

ゾーイが訊ねると、店主は「ああ。ここ数年で巨大な組織になった人身売買を行う魔族たちだ」と苦い顔をした。

「この国には数多くの民族が暮らしている。奴らは貴重な少数民族を攫って売り飛ばしているんだ。中でも、シビラ族は奴らのせいでもう数人しかこの国に存在していない」

「シビラ族?」

聞いたことのない民族にロネとゾーイは首を傾げる。店主は口を開いた。
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