ゾーイ・テイラー〜温もり、のちにキス〜
ロネが目を開けると、そこは酒場だった。昼間だというのに何人かお酒を飲んで顔を赤くしている。ロネとゾーイは酒場の店主と客に囲まれていた。

「こんなところにどうして瞬間移動して来たんだい?」

店主に訊かれ、ロネは「驚かせてしまい、申し訳ありません」と言いながらゆっくり立ち上がる。あの魔族たちから逃げることしか考えていなかったため、どこに行きたいと強く願う余裕はなかった。

「ゾーイ、大丈夫?」

ロネは未だに地面に座り込んでいるゾーイに訊ねる。ゾーイは首を横に振った。突然の瞬間移動で気分が悪くなったのだ。

「すみません、お水をいただけませんか?」

「はいよ」

ロネがゾーイに飲ませる水を注文すると、店主がすぐにコップに水を入れて持って来てくれた。ロネはゾーイにコップを差し出す。

「ゾーイ、これを飲んだら少しは落ち着くかも」

しかし、ゾーイは口元に手を当て首を横に振る。相当気分が悪いのだろう。
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