氷の美女と冷血王子
「孝太郎のことを好きで居続ける自信がなくなったのよ」

真っ直ぐに俺の目を見る麗子。
一見しただけで体に力が入っていて、無理をしているのがわかる。

「お前、嘘が下手だな」
「嘘じゃないわ」
「じゃあ、これは何だよ」
「えっ?」

俺が指さした先には、パソコンの前に広げられた書類の山。
一応重ねてはあるが、所々中が見えている。

「河野副社長と東西銀行について調べていたらしいな」
「そ、それは・・・」

慌てて片づけようとする麗子の手を、俺がつかんだ。

「会社も辞めて関係も終わりにしようなんて言うわりに、やっていることは真逆だな」

「離して」
「イヤだ」

麗子の気持ちが離れたんじゃないと分かった以上、離してやるつもりはない。
抵抗する麗子の体を抱き寄せ、俺は両腕で包み込んだ。

「麗子、お願いだから逃げないでくれ」
情けないけれど、自分の声が震えている。

「・・・孝太郎」

いつの間にか、麗子から抵抗する力が抜けた。
受け入れてくれたんだと理解した俺は、そっと麗子を抱きしめた。

「ごめんな」
「え?」
「不安にさせて、ごめん」

どんなに偉そうなことを言ったって、麗子を守ってやれなかったのは事実だ。
情けないけれど、今の俺にはこうして抱きしめることしかできない。

「本当にごめん」
「孝太郎」

「たとえお前を苦しめる結果になったとしても、俺は諦めることができない」
今さら手放すことはできないんだ。
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